売れっ子講師はどのような思考、行動をするのか

本記事は、2007年に出版された「プロ講師になる方法」第四章『プロ講師の心得』の原稿に若干修正を加えて掲載したものです。

人もう15年以上前の書籍になり古さを感じますが、大切な部分は大きく変わりはないと思います。(マーケティングはインフラが違いすぎて使えませんの購入はしなくて結構です)

当時、講師になる本やセミナーなどがほとんどない時代でした。そのため〝業界初のバイブル”と話題になり、講師本では最も売れたと言われています。

あらためて読み返すと恥ずかしい部分もありますが、何か気づきになれば幸いです。

書店での平積み

スケジュール回答はクイックレスポンス

エージェントが講師を人選する場合、スケジュールを即座に出してくれる方を優先します。あなたがよほど有名講師で無い限り、スケジュールの回答をズルズル延ばしてしまっては次回から企画のステージにさえ乗りません。

自身の講演を受けるに当たっての基準を明確にしておき、スケジュール伺いが来たら迷わず回答して下さい。それが引き受けられない場合でも即座に回答さえしておけば、次回以降も相談が来ます。一番良くないのが迷って待たせたあげく断ることです。

ただし、スケジュール回答にはコツがあります。
依頼の相談段階では、複数の候補日のスケジュールを聞かれるケースがあります。

例えば、「6月11~15日の間で可能な日程はありますか?」と聞かれたとします。もし、すべて可能だとしても、「全部空いています♪」と答えると、急に頼んだほうのテンションが下がることがあります。何となく人気の無い講師のイメージになり、依頼は後回しにしても大丈夫だと思われてしまいます。

反対に、複数の日程を聞かれて、1日しか空いていなければ、「あ!この講師はとても人気があるんだな、早く決めなければ取れなくなる」とその1日で即決されます。

仮に、すべて空いていても「11日と14日なら可能です。その他の日程は若干調整が必要ですが、ご希望とあればおっしゃって下さい」と含みを持たせるか、「いずれも調整可能ですが、6月11日が第一希望です」等の回答をすると結論も早くなります。

すべて可能と答えてしまえば、主催者側で検討してから返事という事になります。その間に別件の問い合わせが来ても、その案件に配慮して即回答が出来ずに困ることもありますし、結果、両方無くなるなんて事になりかねません。

回答する日程を絞ることで即決してもらえる可能性も高くなりますし、お互いのスケジュール調整がスムーズにいきますのでウソも方便です。

あなたの価値を高め、効率のいいスケジュール管理をする為にも「いつでも空いてます!」なんて回答は避けましょう。

ただし、改めて申しますが、変に勿体付けて可能日の回答を中途半端にするのは逆効果です。翌日まで明確な返事を寝かしたため別の講師で決められるなんて事もよくあります。

あくまでも基本はクイックレスポンスです。

なぜか会場のホワイトボードのペンは出ない

講師がホワイトボードに書こうとすると、備え付けのペンがかすれて出ないのをよく見ます。会場設営担当者はしっかりチェックしておけばいいのにと思いますが、何故か多いんです。

そんななか、あるプロ講師のカバンの中には、ホワイトボード用のペンが数色入れてありました。

その講師はどの会場でも出ない事が多いので、自分で書きやすく読みやすい太さのペンをいつも持ち歩いているそうです。

研修が始まってから、バタバタと主催者がペンを探しに走らないで済む様にとの配慮と、聴講者の集中力が途切れる事を防ぐため、勿論、自分自身も慣れたペンで好きな色を使える快適さから持参しだしたそうです。

「あー今日もペンがかすれてる…」と不愉快に感じて終わるだけではなく、マイペンを持つという発想にプロ講師を感じました。

勿論、必ずホワイトボードに何でもかんでも書く必要はありません。全く書かない人気講師もたくさんいますし、書き過ぎで不評の講師もおります。

本文でいいたい事は、自分の研修に応じて最善の準備をする事です。

更に余談ですが、ホワイトボードに書きながら講演した後、消さずにそのまま帰る講師を良く見ます。別に消さないといけない事はありませんが、自ら消す方が好印象です。

ビジネスでは後始末が大事である事を研修で訴えかけた講師が、ホワイトボードを消さずに帰ると、「オイオイ後始末は…」なんて少し意地悪に思う時もあります。

消さない事でマナーが悪いと思われたり、クレームが来る様な事は絶対ありません。あくまでも、その方が印象いいということです。

プロ講師の外見力

プロ講師には外見力が重要です。
内容がいかによくても、みすぼらしい雰囲気の講師からは聴く気が起きません。やっぱり講師には、それっぽいオーラが必要なんです。

経営コンサルタントからよく聞く話ですが、相手が経営者、経営幹部となると、自社の係長の様な井出達ではなめられてしまうので、スーツや靴、時計等を上質なものにする事も仕事のうちだそうです。

この話はプロ講師も同じ事が言えます。くたびれたサラリーマンみたいな外見では、いかにも面白くなさそうですし、反対に、あまりにカジュアル過ぎると聴く気がなくなります。

極端に高級や奇抜なスーツが必要なわけではありません。

講師の場合に必要なのは、清潔感のある服装+ワンポイントの遊びです。

例えば、視力が悪くなくても研修の時だけ個性的な伊達メガネをかけるとか、普段はしない派手目のネクタイやポケットチーフをする等など、多少いつもと違う遊びを入れましょう。たったそれだけの事でも、“それっぽいオーラ”が出るんです。

女性講師の場合はもう少し遊びの要素を強めてもいいでしょう。華やかなカラーのスーツやブローチ、帽子なんか効果的です。ただし、シャネルのロゴ付きスーツや、エルメスのスカーフとかブランド丸出しはちょっと引きます。

余談ですが、以前に超有名IT企業の経営幹部を招いての講演会を企画した時の事です。

会場で到着を待っていると、ヨレヨレのトレーナーに綿パン、土の付いたスニーカーの若造が、彼女連れで登場しました。「まさかな…」と思いましたが、恐る恐る「○○さんですか?」と聞くと、やはり本人でした。若いのは分っていましたが、正直、“予想外”でした。

着替えを持って来ている様子はありません。「どうかな~?」と思いながら、主催団体の責任者にご紹介したところ、案の定「ギョ!」としていましたが、その場は何も言わずに挨拶を済ませ、講師控室を出てから私だけにクレームを言い出しました。「まぁ、IT系はあんな感じですよ…」と苦し紛れに言訳しましたが、理解出来ない様でした。

いざ、講演に入ると内容もプレゼン能力も予想以上に優れていたので、これで主催者も納得してくれるかと思いましたが、講師を見送ってから改めて絞られました。

自身の職場では普通かもしれませんが、まだまだ一般的には理解してもらいにくいのが現実です。

実際、損をします。折角良い講演をしたのに、そんなつまらない事で評価が下がるなんて勿体無い限りです。今時そんな事を言う方が古いと思うでしょうが、まだまだビジネス系の講演会ではそんなもんです。いろんな主義主張もあるでしょうが、聴講者にはいろんな人がいますので、わざわざ古い考えの方に反感持たれる必要はありません。

余談ですが、ワンポイントの違いを入れる事で、自分自身も講師としてのスイッチが入ります。普段はおとなしい講師が、伊達メガネを付けた途端に急にテンションが上がるなんて人もおります。

これは「ギアチェンジ」と言い、何かの儀式によって意図的に意識モードを変えるプロセスです。あなたの個性を発揮するワンポイントを決めて「ギアチェンジ」のシフトを創りましょう。

プロ講師は謙遜しない

冒頭での自己紹介の際の注意点です。

意外にも「私のような若造の~」とか「たわいない話ですが…」等と謙遜する講師が多いんです。確かに聴講者には年長者も、明らかにキャリアが上の人も沢山おります。しかし、その場はあなたのキャリアを分かった上で、話を聴きに来ている人達なのです。

勿論、威張っている講師も嫌ですが、自信無さげの講師の言う事は聴きたくはありません。

あなたが講師として招かれたという事は、あなたがポジショニングしたテーマに関しては、聴講者よりも情報を持っているという事です。

登壇して聴講者の顔を見ると変にへりくだってしまいそうになりますが、必要以上の謙遜は絶対にしない覚悟をしましょう。

ここで言いたいのは、講演講師は自信満々でないと聴く方に伝わらないという事です。

反対に講演で謙遜していたのに終わってから威張っている講師もたまにいますが、講演後に賞賛された際は腰を低くして謙遜した方が好感を持たれます。

間違っても、終了後の懇親会でまで威張らない様にして下さい。

プロ講師を目指す人にとって逆境は“おいしい”

あなたのキャリアの中で様々な逆境があったと思いますし、これからも直面するでしょう。

しかし、それはこれから講演をやっていこうと考えている方にとっては、おいしい講演ネタになります。

成功事例を話す際に、全く逆境が無いと感動出来ません。

NHKの『プロジェクトX』も逆境無しにサクセスストーリーは成り立ちません。(ちょっと古いですか?)

人気講師のエピソードにも、必ず「それはキツイな~」と思う逆境話が出てきます。

そう考えると、今の仕事の中でも逆境が起これば、「やったー!また講演ネタが出来た」と思えますよね…

もの凄いクレームが来て、土下座して謝罪している時にも「これは講演ネタになるな…」

取引先の不渡りに対して、債務者の帰りを徹夜で待っている時には「この経験は講演ネタになるじゃん!」

勤める会社が外資に買収されたら「おー!これは将来の講演ネタとしておいしいぞ!」

プロ講師を目指す方は、逆境こそあなたの講演を光らせるネタになると考えましょう。

どんな専門的なノウハウの講演であっても、講師自らが体験した具体的な逆境事例は最高の教訓となり聴講者を惹き付けます。

実際、成功談ではなく失敗事例を話して欲しいというニーズは多いんです。
テレビ朝日の「しくじり先生」が人気なわけですね。

勿論、単純にトラブルを歓迎している訳ではなく、あくまでも一生懸命仕事に取り組んでいる過程での逆境についてです。また、「おいしい」という言葉が苦難を面白がっていると誤解を招くかもしれませんが、そう考えることで、何が起きても前向きになれるというメッセージとして捉えて下さい。

ポジティブリスナーを見つける

登壇して聴講者を見渡す時って緊張しますよね。

研修が始まっても、反応は人それぞれです。どんな研修に対しても不機嫌な態度の聴き方の人っているんです。そんなネガティブリスナーを見ているとますます緊張します。

講演が始まったら、まず聴講者の中から聴き上手な人を見つけましょう。

たいがい、前の方の席でうなずきながら一生懸命メモしている方や、後方にいても眼力を発揮して講師を見つめる方がいます。

その人達を今日のポジティブリスナー(講師にとっての)に決めましょう。

常にその人だけを見て話すという意味ではなく、ポイントで自信を高めテンションを上げるるために利用させてもらうんです。

基本的には全体の反応を見渡す必要はありますが、例え反応の悪い聴講者がいても、始まってからの大幅な軌道修正は失敗の基ですので、反応の良い人を信じてテンションを上げて話すしかありません。それがあなたに自信を与え、結果として講演を成功に導きます。

不機嫌なネガティブリスナーを気にし過ぎるあまり、自信が無い雰囲気になる事だけは避けて下さい。

まずは、最初の10分で、あなたにパワーを与えるポジティブリスナーを決めましょう。

余談ですが、不機嫌な聴き方の方や、無反応な人に限って講演後に「とても良かったです。感動しました」なんて言ってくるケースが多いそうです。単にその人の聴くスタイルなんですかね?

慣れすぎない

超人気のプロ講師が「うまくなりすぎた…」と悩んでました。

最初は、自慢をしているのかと思ったら本気で言っているのです。
講演を始めた頃の緊張感が無くなり、次から次へと言葉が出てくるのは良いが、なんとなく説得力が落ちた気がするそうです。

確かに、改めてその講師のデビュー時のテープを聴くと、かなり緊張した様子で、たどたどしい話し方ですが、新鮮で心に響く印象でした。

逆に今はめちゃくちゃ上手いのですが、テクニックで話している印象です。
これは“成功のジレンマ”でしょう。

努力して下手になる事は出来ませんし、テクニックで下手にすると嫌味です。
講師業は奥が深いと感じました。

「慣れすぎない」という事は、いい意味での緊張感を継続する事となり、長期的に考えると大切な心がけです。

企画担当者とのアイコンタクト

講演・研修中に聴講者に集中する事は大切ですが、途中で数回は企画担当者とアイコンタクトを取る事が必要です。

後方に企画担当者が控えている事が多いと思います。ごくまれにですが、その企画担当者が講師に何らかの合図を出す事があります。

本当に問題を感じる場合はメモを渡すなりしますが、スタッフが講演中に指示を出すと講師の顔を潰しますし、聴講者の集中力を奪うので、出来るだけ演壇まで行って指示はしたくないと考えます。

僅かに気になる程度だけど、このまま続くと少し問題なので、今のうちに知らせておこうといったメッセージをアイコンタクトで送ろうとします。

  • 雑談、余談が長引いています。本題に戻して下さい。
  • 少し休憩を入れましょう。
  • 時間がおしています。そろそろまとめて下さい。

等など、そのままズバリ伝わらなくても、ある程度ニュアンスは解るそうです。

(勿論、実際はアイコンタクトだけでなく、腕時計を指差すとかも並行しております)

スタッフをしょっちゅう見ると聴講者に対して印象悪くなりますが、時々は確認する事で、何らかの小さいメッセージを感知出来ます。

といっても、スタッフの表情にあまり振り回されない様にして下さい。スタッフが別の仕事の事を考えて、難しい顔や、首を傾げている事だってあります。

実際あった事例ですが、ある講演で私が企画担当者として会場の一番後ろで見ていた時に、目の前を虫がしつこく飛び回るので思わず手で何度も振り払ったところ、その姿を見た講師が軽いパニックになってしまった事がありました。私がNG合図を出していると思ったらしくかなり焦らせてしまいました。

私も不注意でしたが、正直言ってこれは過剰反応です。もう少しの間、冷静に見たら特に問題ない事も解ったはずです。

結論としては、講師は聴講者に集中する事が基本ですが、ポイントでキーパーソンと目配せして、聴講者だけでなく、企画側の反応を確かめる事もプロ講師には必要です。

講演で爆笑はない

研修で笑わすのってかなり難しいです。
普段のトークでどんなに面白い人でも、研修ではあまりウケません。

勿論、笑わす話術、テクニックを確立しているプロ講師もおりますが、一般的にはなかなか思う様に笑いが取れないもんです。

そもそも、お笑いを見に来ている訳じゃないので、本当は面白くても会場爆笑なんて滅多にありません。聴き手も笑う準備が出来ていないんです。

飲み屋での笑いのツボと研修の笑いは別物です。面白いは “興もしろい”でなければウケません。いわゆるワクワクする面白さです。

勘弁してほしいのは “オヤジギャク”連発です。しかも、自分が一番ウケてるなんて、寒い風景をよく見ます。まさしく冷笑です。

古典的テクニックですが、笑わすネタのはずが反応ゼロだった時の「あ、ここ笑う所なんですけど…」は会場が多少和み、滑った自分をちょっとだけ助けます。

自主開催と依頼を受けたセミナーの大きな違い

最近はコンテンツホルダーが、自らセミナーを主催しております。

ほとんどがSNSで告知して集客している様ですが、恐らくその様なセミナーでは、初対面でも聴講者は講師に対して親近感を持っており、全員がポジティブリスナーだと思います。

自己主催でなくても、参加しているコミュニティのセミナーでも、仲間意識があり、初めから友好的に聴いて頂けますので、大きな失敗はないでしょう。

しかし、本格的にプロ講師としてやっていくのであれば、その様な聴講者ばかりではないと覚悟して下さい。企業研修や各種団体で実施するセミナーに講師として招かれた場合の受講者の目はとても厳しいのです。多くの方が講師に対して本当に役立つ話をするのか疑問を持ちながら参加しています。SNSなんて見ている人はいません。中には忙しいところ強制的に参加させられている人も含まれ、ほとんどがネガティブリスナーです。

その人たちを惹きつけるのは、主催セミナーの様にはいきません。かなり工夫して冒頭で掴まなければ、最後までどん底状態になります。

講師自ら主催するセミナーと、外部から招かれる講師とでは聴講者の聴く姿勢が全く違います。仲間内で喜ばれた話が、どんな場でも同様にウケるとは思わないで下さい…ショックうけますよ!

更に難しいのは聴講者にウケるだけではなく、主催者の意図する目的を達せなくてはいけない事です。例えば、営業研修では、聴講者を長時間飽きさせず聞かせながらも、当然その後の営業成績への効果も意識しなくてはいけません。聞く側の営業パーソンには楽しい話の方が喜ばれますが、企画している企業はそれだけでは困るのは言うまでもありません。

聴講者を惹きつけ「聞いてよかった」と思わせるだけで満足せずに、主催者が何のためにセミナーを開催したかも理解しましょう。時には聴講者の満足よりも主催者のネライを優先すべき必要もあります。

主催者側もビジネスとして依頼しておりますので、聴講者の反応が悪かったり、企画主旨に沿っていなければ、クレームになる場合もあります。

個人でセミナーに参加して、数千円から数万までの出費の失敗であれば自己責任として諦めも付きますが、企業が研修を企画した場合は、直接的なコストの問題でなく参加者への信頼や、その方々の拘束時間などの間接的なマイナスも含まれるので失敗は許されません。

主催セミナーでは集客のリスクもありますが、外部セミナーに招聘された場合は基本的に集客のストレスはありません。その分、聴講者満足以外に主催者ニーズというキーポイントがある事を理解しましょう。

主催担当者の不安解消がリピートの鍵

講演を実施する際、主催担当者は当日まで胃が痛いものです。

まず、頼んだ講師がネライに沿った話をしてくれるのかは勿論ですが、もっと根本的なのが、予定通り来てくれるかという点です。

私は7000件以上の企画に携わりましたが、常に講師が到着するまで不安です。勿論、前日に最終の確認は済ませますが、当日に駅改札等で待ち合わせしている時は何度経験しても毎回ハラハラします。

何かの間違いで講師が来てないなんて事だけは絶対避けたいものです。企業研修や、異業種交流会での講演等でも担当する方は様々な心配をするものです。

講師側は予定通り向かって特に変わった事はないのでしょうが、移動中の連絡でどんなに安心するかを相手の立場で考えてあげましょう。

電話や携帯メールで「予定通り移動しておりますので、○○時に到着します」や「今、◇◇駅で乗り換えました。予定より少し早目に会場入りします」とか簡単なメッセージを送るだけでとても好印象です。

勿論、予定より数分でも遅れる場合は必ず連絡しましょう。きっと担当者の心に「あの講師は安心だ」という印象が残ります。
安心はリピートに繋がるのです。

情報を圧縮し印象を優先する

研修の機会を頂ければ、与えられた時間で出来るだけ多くの情報を提供しようとします。それが聴講者の役に立ち、自分の評価も高まると思うものです。

しかし、実は情報が多すぎて、何が一番重要だったか分からなかったという感想って結構多いのです。もっと言えば、情報が多すぎて何も残らなかったとクレームが来たこともあります。

企画の主旨を確認して、情報を取捨選択し、更に圧縮する事が必要です。
ありったけの情報を大急ぎで語るよりも、厳選したコンテンツをしっかり伝える事が重要なのです。

極論を言えば、講演では僅かひとつの言葉、フレーズだけでも聴講者の心に残れば成功です。私も10年以上前に聴いたメンタルヘルスセミナーでのひとつ言葉が、いまでも困った時に頭に浮かび助けてくれます。皆さんもそんな言葉やノウハウが幾つかありませんか?

ワンフレーズであっても聴講者の頭と心に一生残すことが出来れば講師冥利に尽きると思いませんか…

聴講者の頭に時間分の情報を残すなんて不可能です。
「量」よりも「質」なんです。思い切ってコンテンツを削ってみましょう。

成功談は“自慢ですよ”と開き直る

講演・研修には必ず事例を入れなくてはいけません。
具体的事例をなしにノウハウを解説しても、机上の空論と取られます。

しかし、成功事例を熱く話した事で、終了後のアンケートで「自慢話を聞かされた」と批判が多くて落ち込んでいる講師がいました。

それは聞き手が素直じゃないのか、確かに自慢っぽかったか正確には分かりませんが、その講師のシナリオに欠如していたのが“聴講者との共感”でした。

失敗の繰り返しで学びながら、成功を掴み取ったという展開は事例として重要です。無理に失敗話を作れって言っている訳ではありませんが、どんな成功にもかならずプロセスで、失敗や苦難があったはずです。その辺りを棚卸してシナリオを創りましょう。

失敗談自体が自慢話にならない様に、「意外とつまらないミスするんだな~」といった話も加えて自分自身を一段下げると“共感”されやすい様です。

過度の遠慮や謙遜は不要です。成功事例をしてから、聴講者に対して「自慢話だな~と思います?…はっきり言って“自慢”です!」と言い切ると逆に好感を持たれます。(いや、ホントに!)

凄い成功なのに「全然たいした事ありません」なんて言うとかえって嫌味です。アンケートの意見を真摯に受けとる事も大事ですが、何を言っても自慢話にとる聴講者はおりますので、一部の意見に過剰に振り回される必要はありません。

多様なセミナーに参加する事が継続的活躍のカギ

プロ講師として継続的に成功したいなら専門外も含め多様な話を聴くことはとても重要です。

特に現役経営者の講演はネタの宝庫です。
経営者の講演会では、書籍やマスコミには出ていない話を仕入れる事が出来ます。

あなたが優れたノウハウを持っていても、面白い事例がなければ、退屈な机上の空論になります。自らの体験事例も必要ですが、他の権威のある経営者の事例や、あまり知られていない中小企業経営者の成功事例等の情報収集に講演会は最適です。

但し、間違っても、聞いたまま使わない様にして下さい。事実を曲げてはいけませんが、あなたのノウハウの中に組み込みながら、あなたなりのオリジナルの見方を加えて解説しましょう。

書籍から得た事例をばかりを使うのはお勧め出来ません。聴講者はよく勉強している方が多いのでバレバレです。(経営者の自叙伝から引用したネタばかりでバカにされた講師もいます)

そう考えると、出来るだけ経営者本人から聴いた話が良いでしょう。しかし、あなたが経営者にインタビューする事は難しいですよね。

だからこそ現役経営者の講演はチャンスなんです。
講演後の質疑応答では、思い切って突っ込んだ質問しましょう。あなたの質問によって、他の講演会場では聴けない話や、広報室が焦るような、ぶっちゃけトークが聞けるかもしれません。

更に飛躍して考えると、経営者講師にとっても、インパクトある質問をしてくれた人は印象に残りますので、その後の名刺交換で親しくなり、改めてインタビューさせてもらえるかもしれませんよ。

また、同業やコンサル系講師の講演も聞くべきです。
この場合は、内容を盗んで使うという意味ではなく、コンテンツの展開等々で学べる部分も多々あります。仮に下手演だったとしても悪い例として反面教師に出来るので、それはそれでとても勉強になります。

とにかく、ビジネスセミナーのプロ講師を目指すなら、様々な分野のセミナーに積極的に参加しましょう。ビジネス系に限らず自治体で企画している社会問題の啓発講演会からも学ぶ要素がたくさんあります。

一聴講者になって客観的に講聴く事で気づく事が多いでしょう。

地方講演の意外なメリット

人気講演となると全国から依頼が来ます。
東京や大阪しか受けないなんて講師もいますが、本格的な人気講師となるためには場所を選ぶべきではありません。

確かに地方での講演・研修は移動時間も長くコストパフォーマンスは低くなります。(移動時間を考慮して謝金が上がる事はあまりありません)

それに士業の方にとっての見込み客を見つけるプロモーションの場にもなりません。しかし、地方講演を受けることで意外なメリットがあります。

クライアント先との会話で「先週は九州で、明日は北陸で講演なんです」なんて言うと、相手は「え!この先生はそんなところから講演依頼が来るのか…」と思われ不思議と見方が変わる様です。中には全国各地で講演をしている事によって何故かコンサルフィーが上がったなんでいう人もいました。

地方にはセミナーを受ける機会を得にくい経営者、ビジネスパーソンのために、地域経済団体等の主催するセミナーが多く開催され、東京、大阪から講師を招いております。実際、地元にも講師はいますが、あえて中央から招くケースが多いんです。(地元の身近なコンサルタントのセミナーでは訴求力が弱いそうです)

地方でのセミナーは大きな市場です。それに条件の悪い依頼を断っていたら、いい条件の仕事も来なくなります。あなたが超有名講師でない限り場所を選ばず、地方講演の依頼は喜んで引き受けましょう。

地方講演はインプットのチャンス

ある大成功しているプロ講師は、地方講演の度に早めに現地入りして地域の人気店を視察しています。

今日、地元の商工会議所で講演する講師だと言えば、アポなしでも経営者と直接話が出来たり、主催者からも地元ならではの情報を収集出来るそうです。

全国の人気店を自分の時間とコストで回るのは大変です。ですから地方講演を利用するのです。別の人気講師も、取材したい地方の名店があると、講師謝金は安くてもいいからその地域の講演を入れてくれと言ってきます。

ネタが東京の話ばかりでは全国的な人気講師にはなれません。
例え東京で講演する時でも、「地方に立地条件が悪いながらにも、すごい行列が出来ている店があります。先日、現地を見に行きました」なんて言うと、とても反応が良いようです。

実際は講演のついでであっても、聴講者は全国各地を取材している熱心な講師だと感じます。逆に東京のネタはマスコミで取り上げられているケースも多くインパクトに欠けます。

プロ講師で継続的に成功するには常にインプットを怠らず、毎年ネタの何割かは自ら陳腐化させて新ネタを加える等、コンテンツの新陳代謝を習慣にする事が重要です。その為にも地方講演での現地取材はインプットの絶好の機会です。

ただし、現地の繁盛店を視察したとしても、当日の講演で仕入れたての地元企業、商店の成功事例をネタとして使いすぎるのは避けた方がいいでしょう。視察された経営者も地元では言ってほしくない事もあると思いますし、その他の参加者にとっても地元の繁盛店には嫉妬もある様で反感買う場合もあります。

当日仕入れた情報は、少し早めに来て町を見させて頂きました程度の話で済ませ次の機会に使いましょう。

オマケで、地方講演で重要な掴みをご紹介します。まず、地方に行く際は、その地域の事を事前に調べておきましょう。講演する地域の名産や観光地、地元出身の有名人、言い伝えでも結構ですのでインプットしておき、講演の冒頭や途中の余談で自分のライフワークとリンクさせて話しましょう。変に知ったかぶりする事なく、子供の時にお土産で食べて感動したとか、昔話で読んでとても興味を持っていたとか、山登りが趣味なので一度登ってみたかったとか、地域へのリップサービスを入れましょう。

たったそれだけの事で、一気に講師と聴講者が近づくのです。

地方講師が求められている

都会の講師を地方が招聘すると前述しましたが、反対に地方講師が都会に招かれるケースも増えております。

何故か地元では反感を買い、あまり講演をする機会がないらしいのですが、実は地方講師のマーケットは都会や他の地方にあるのです。

地域経済はまだまだ厳しい状況です。しかし、そんな中でも元気な中小企業が多数出てきており、実はそんな地方企業のマインドやノウハウを大企業が求めているのです。

景気に影響されずに、少ない資本であっても独自の戦略でオンリーワンを築き成功している逞しさを、大企業が社員教育や販売店研修等に採用しているんです。

また、地方における「立地が悪い」「人が少ない」「斜陽産業だ」「そもそも地域経済が悪い」といった一般的に売れないいいわけを、同条件でありながら問題としない、むしろチャンスに変えている企業事例は他の地方でニーズがあります。(地元にもそんな会社もあるそうですが、何故か近い会社の事例は素直に聞けないそうです…だから、他県から呼ぶんです)

地方の元気な中小企業の経験、事例をお持ちの方もチャンスがある事を改めてお伝えしておきます。

本記事のまとめ

いかがでしたでしょうか…
シチュエーションが古い部分もありますが、やっぱり講師は気遣いが大切なんです。

素晴らしいコンテンツをお持ちなのに消えていった講師はたくさんいます。その要因として姿勢におごりがあった講師は少なくありません。それを伝えるためにあえて古い原稿を棚卸してみました。