自分が話したいことではなくお客様が聞きたいことをコンテンツにする

株式会社シエーナ 代表取締役 吉川直子さん /社会保険労務士・(一財)生涯学習開発財団認定コーチ

ーどのような企画で講演研修をされているのですか?
経営者の団体での講演が多いです。主に人事労務系でテーマとしては「働き方改革」や「人事労務管理研修」などです。最近では「テレワークに関する労務管理」「ハラスメント研修」とか、その両者が合わさった課題の「リモートハラスメント」などの課題も出てきています。
これから法改正による環境変化などの背景もあり労務はかなり変わっていきますので講演や研修ニーズも多様化すると思います。

社会保険労務士とコーチの組み合わせで新しい価値を提供

ー士業は差別化できないという人が多いのですが、吉川さんはかなり早い時期から社会保険労務士とコーチを組み合わせてますね
社労士を目指した段階で人事の専門家になりたいと考えていました。しかし社労士業務は労使トラブルの解消などマイナスをゼロにするような仕事でしたので、プラスアルファの人材育成、人材活用、社員のモチベーションを上げることにもアプローチできる専門家になりたいと漠然と思っていました。その時期にコーチングに出会い、社労士とコーチの両輪で人事労務のマイナスのところから人材育成のプラスまでトータルで貢献しようと考えました。結果的に視野が広がり全体を見ながらアドバイスできることがお客様のニーズと合ってきました。
最近HPで「人事労務と人材育成に関する相談に強い社会保険労務士事務所」と掲載したところ想定以上に反応がありました。社労士だから社会保険しか分かりませんという時代ではなくなってきました。どんな仕事もマルチタスクを求められてきますので士業も変化に柔軟に合わせていかなくてはいけないと思います。

「法改正」の講演依頼にコンテンツをつくりこんだ

ー講師を目指す人は最初の一件に苦労します。吉川さんはどのようにして講演依頼を得たのですか?
安宅さんと知り合って講師派遣会社に登録をしてもらったのがターニングポイントになりました。当時「高齢者雇用安定法」が改正されることになり講師派遣会社の営業さんから『吉川さんできますか?』と問い合わせをもらいました。初めてのことで多少不安もありましたが、この機会をチャンスにしようと試行錯誤してコンテンツをつくりこんで臨みました。それが初講演です。その後も講演依頼を待つばかりでなく小規模な勉強会や知人の自主開催セミナーなどでも話す機会に積極的に取り組みました。それらの実績をHPやブログに書くと『この人は講演をしている人』という認知されて問い合わせが入りだしました。

相手が聞きたいことを話す

ー最後に「これから講師を目指す人」に向けてアドバイスいただけますか
自分が話したいことではなくお客様が聞きたいことをコンテンツにすることが重要です。
ついつい自分に意識が向きがちで「自分がうまく話そう」とか「自分が講師としてこうありたい」とか考えてしまいます。それを受講者視点で「何に困っているのだろう」「どのような状態を目指しているのだろう」と意識転換してコンテンツをつくりだしたことで反応が変わりだしリピートも増えていきしました。

社労士の講演は法律ばかりでつまらないと思われがちです。以前「働き方改革」をテーマにした2時間講演のときにほとんど法律に触れずに話をしたら受講者から『社労士の講演だから法律の話だと思ったけどとてもよかったです』と感想をいただきました。受講者は法律を学びたいのではなく職場で使えることを聞きたいのです。

ーありがとうございました。これから講師を目指す人や士業の方にたいへん参考になる話を伺えました。
行動することは皆さんできると思います。とりあえずやってみるが大事です。やってみると次が見えてきます。

株式会社シエーナ 代表取締役 吉川直子

新卒で入社したアパレルメーカーの倒産をきっかけに、専門スキルを習得する必要性を実感し24歳で未経験ながら労働保険事務組合(社会保険労務士事務所併設)に勤務。その後中小企業の人事労務管理、大企業のアウトソーシング業務等9年間の事務所勤務経験を経て2005年に独立。人材育成への関心から2003年よりコーチングのトレーニングを開始し(2005年(一財)生涯学習開発財団認定コーチ資格を取得)、あわせて中小企業経営者や士業の方を対象としたプロコーチとしても活動する。
その後「組織」へのコーチングアプローチに特化するためコーチング事業を法人化し、2011年株式会社シエーナを設立。目標管理制度と連動した1to1コーチングでは幹部社員や管理職の主体性を高め目標達成度を高める支援を行っている。
現在は、株式会社シエーナにおいては、成長を目指す企業にコーチング、企業研修等を提供。また、個人経営の社会保険労務士事務所(社会保険労務士事務所シエーナ)では、中小企業の人事労務管理のサポートを中心に活動中。プライベートでは1児の母。

取材後記

最後におっしゃった「とりあえずやってみる」は、このインタビューを総括するメッセージだと思いました。社労士とコーチの組み合わせ、講演に挑戦する時の行動力、顧客の変化に柔軟に対応する姿勢を見ても「とりあえずやってみる」の精神だったのでしょう。「皆さんできます」とおっしゃっていましたが実際は機会を見送ってしまっている人も多いはずです。このインタビューは士業や講師を目指す人に勇気を与えるものになったのではないでしょうか。(インタビュアー/文:安宅 仁)