階層別 人材開発の課題と期待

目次
人的資本経営時代の「人材開発・人材育成」
人材開発の基本は、対象者と課題の設定
人材開発はロジックをもって設計しなくてはいけません。
企画するうえでいくつかのフレームワークがありますが、本記事では階層・役職を縦軸に「受講者の課題」⇨「期待すべき状態」のマトリクスで表記してみました。
自社を俯瞰し「いま一番成長が鈍化している階層は」「どの階層にインパクトを与えることで全社の成果に影響するか」等々を考えてみましょう。
階層・役職 | それぞれの現状と課題 |
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新入社員 | 学生気分が抜けていない、指示待ちで主体的な行動がとれない。 ストレス耐性が低く、突発的なトラブルに柔軟に対応できない。 自律的な学習習慣の欠如と、与えられたタスク以上の価値を生み出す意識の不足。 報連相、ビジネス文書作成・コミュニケーションスキルの社会人基礎不足。 自身のキャリアパスに対する漠然とした不安や目標意識の低さ。 |
2~3年目 | 仕事に慣れてきて成長が鈍化する。離職率が高くなる傾向。 自身の専門性を深める方向性が見えず、モチベーションが低下する。 上司や先輩への依存から脱却できず、問題解決能力が伸び悩む。 複数業務の優先順位付けや時間管理が苦手で、業務効率が上がらない。 新入社員と同様にストレス耐性が低く、メンタルヘルスの課題が顕在化してくる。 |
若手リーダー | 役職はないが若手社員から頼りにされている。良くも悪くも影響力がある。 非公式なリーダーとしての役割と、正式な権限の間のギャップに悩む。 若手のメンター役を務めるが、指導が属人化し効果的なフィードバックができない。 自身の業務とチームへの貢献のバランスが取れず、疲弊しやすい。 この階層での活躍が管理職に繋がるが、管理職を希望しない傾向が増加。 |
ミドル層 | 管理職を目指す社員と成長、挑戦を避ける集団に分かれる。 組織に不満を抱える。エンゲージメントが弱体化する。 新しい技術や働き方への適応が遅れ、若手との知識・スキルのギャップを感じる。 自身のキャリアの停滞感や、キャリアパスの選択肢の少なさに悩む。 部門間の連携不足や、組織全体の課題に対する当事者意識の希薄化。 |
シニア層 | 管理職定年となりモチベーションが低下。特に変化を柔軟に受け入れられない。 長年の経験や知識を若手に伝承する方法が見つからず、自身の存在意義を見失う。 健康面や体力的な不安から、新しい役割や業務への意欲が低下する。 過去の成功体験に固執し、新しい価値観やビジネスモデルへの理解が不足する。 デジタルスキルの遅れがボトルネックとなり、チーム全体の生産性にも影響する。 |
新任管理職 | 望んで管理職になったわけではない人が増加している。 個人の成果が評価されるプレイヤーから、チームで成果を出す意識改革が必要。 メンバーとのコミュニケーションの取り方に戸惑い、信頼関係構築に課題を抱える。 部下の育成や評価に対する知識、動機が不足しており、適切なマネジメントができない。 自身の業務負担が増加し、プレイヤー業務とマネジメント業務のバランスに苦慮する。 |
管理職 | 多様な働き方が認められる中でチームビルディングに苦戦。 時間外やハラスメントに対して意識が足りない、逆に敏感すぎる。 チームメンバー個々の強みを理解し役割分担をアサインできない。 メンバーの自律性を引き出し、エンゲージメントを高めるための具体的な施策が打てない。 自身の専門領域に閉じこもり、他部署との連携や全社視点での課題解決が苦手。 |
上級管理職 | 経営者とともに高い視座で、組織マネジメントをしてほしい。 全社、セクションのコンプライアンス厳守、内部統制。 既存事業の維持・成長だけでなく、新規事業創造やイノベーション推進に対する意識の低さ。 中長期的な視点での人材ポートフォリオ戦略の策定と実行ができていない。 ステークホルダー(顧客、株主、従業員、地域社会など)との良好な関係構築と対話能力の強化。 |
人材開発で階層ごとに得たい成果を定義する
企業・組織にとって人材開発は投資です。研修を企画する際に「期待する成果」かを事前にステークホルダーと共有しておかなくてはいけません。漠然と研修を企画して、なんとなくよかったでは研修を導入する意義がありません。成果指標を設定しておくことが重要です。
階層・役職 | 各階層に期待する役割 |
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新入社員 | 企業人としての自覚を持ち、指示された業務を正確に遂行できる基礎的なビジネススキル(報連相、PCスキル、ビジネスマナー)を習得していること。困難な状況でも諦めずに取り組むレジリエンスと、自ら学び成長しようとする主体性が期待されます。自身の役割を理解し、チームの一員として貢献する意識を持つ。 |
2~3年目 | 自律的な業務遂行能力を高め、課題発見から解決までのプロセスを自身で考え実行できること。自身の専門性を深掘りし、他者と差別化できる強みを確立する意欲が求められます。周囲と連携し、より複雑な業務にも積極的に挑戦することで、生産性向上とキャリア形成への意識を高めることが期待されます。また新入社員のメンター役としての自身の成長にも期待。 |
若手リーダー | チーム目標達成に向け、周囲を巻き込み協調性を醸成できること。若手の手本として、実践的な業務知識と問題解決スキルを発揮し、後輩の成長を支援するメンタリング能力が期待されます。自身の業務とチーム貢献のバランスを取りながら、将来の管理職としての素養を磨くことが求められます。 |
ミドル層 | 自部門だけでなく全社視点で物事を捉え、組織全体の課題解決に貢献できること。変化を恐れず、新しい技術や働き方を積極的に学習し、チームに導入する変革推進力が求められます。自身のキャリアを主体的に見つめ直し、後進の育成や部門間の連携を通じて、組織全体のエンゲージメント向上に貢献することが期待されます。 |
シニア層 | 長年培った豊富な経験と専門知識を活かし、若手社員や組織全体への継承を主導できること。自身の役割の変化を受け入れ、新しい学習に意欲的に取り組む柔軟性が求められます。デジタルツールを積極的に活用し、自身の業務効率化だけでなく、チーム全体の生産性向上に貢献することが期待されます。 |
新任管理職 | プレイヤーとしての成功体験から脱却し、チーム全体の成果最大化にコミットできること。部下の強みや特性を理解し、適切な育成とフィードバックを通じて、メンバーのモチベーションと能力を引き出すコーチングスキルが求められます。自身が率先して模範的な行動を示し、チームの信頼関係を構築することが期待されます。 |
管理職 | 多様な働き方を尊重しつつ、チームの生産性とエンゲージメントを最大化する戦略的チームビルディング能力が求められます。ハラスメント防止や労務管理に関する適切な知識を持ち、メンバーの心理的安全性を確保しつつ、明確なリーダーシップを発揮すること。自身の専門性に加え、他部署連携や全社最適の視点で課題解決を推進することが期待されます。 |
上級管理職 | 経営戦略を深く理解し、自身のセクションに落とし込み具体的な事業計画を策定・実行できること。新規事業創造やイノベーション推進に対する強い意欲と、それを実現するための組織変革力が求められます。企業価値向上に向け、中長期的な視点で人材ポートフォリオ戦略を牽引し、多角的なステークホルダーと信頼関係を構築することが期待されます。 |
各階層向け研修テーマ
階層別の課題、成果を定義したら何をテーマに研修をおこなうべきかのフェーズです。下記は基礎的なテーマですが、変化の時代には新しいテーマが誕生しております。
階層・役職 | 研修テーマサンプル |
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新入社員 | ビジネスマナー&報連相基礎研修: 社会人としての基礎となる行動規範、情報伝達の基本を習得し、円滑な業務遂行能力を高める。 PDCAサイクル実践研修: 業務の進め方を体系的に学び、自律的に課題を発見し改善する思考力を養う。 レジリエンス強化研修: ストレスへの対処法を学び、困難な状況でも前向きに業務に取り組める精神力を育む。 キャリアデザイン入門: 自身のキャリアを主体的に考え、目標設定を行うことで、モチベーション維持と早期離職防止に繋げる。 ITスキル基礎研修(Excel, Word, PowerPoint): 業務効率化に直結する基本的なPC操作スキルを習得し、生産性を向上させる。 |
2,3年目 | 問題解決力向上研修: 業務上の課題を論理的に分析し、具体的な解決策を立案・実行する能力を強化する。 ロジカルシンキング研修: 思考の整理と伝達を効果的に行うための論理的思考力を養う。 セルフマネジメント研修(時間管理・目標設定): 自身の業務を効率的に管理し、目標達成に向けた計画性と実行力を高める。 専門性深化ワークショップ: 自身の強みとなる専門領域を特定し、その知識・スキルを深掘りする具体的な方法論を学ぶ。 プレゼンテーションスキル実践研修: 自身の意見や分析結果を効果的に伝え、周囲を説得する能力を向上させる。 |
若手リーダー | フォロワーシップ強化研修: 上司を補佐し、チーム目標達成に貢献するための積極的な働きかけ方を学ぶ。 効果的なメンタリング&OJT研修: 後輩育成のスキルを体系的に学び、具体的なフィードバックや指導方法を習得する。 影響力と巻き込み力向上研修: 役職がない状況でも、周囲を動かし、協力体制を築くためのコミュニケーションスキルを磨く。 キャリアとライフプランニング研修: 将来の管理職としてのキャリアパスや、仕事と私生活のバランスについて考える機会を提供する。 チーム目標設定と進捗管理研修: チーム全体の目標を明確にし、メンバーの進捗を管理・支援する具体的な手法を学ぶ。 |
ミドル層 | 変革リーダーシップ研修: 組織の変化を前向きに捉え、新しい技術や働き方を率先して導入し、チームを牽引する力を養う。 部門間連携・クロスファンクショナルチーム構築研修: 自部門に留まらず、他部署との協業を促進し、組織全体の最適化に貢献する。 キャリアの再構築・セカンドキャリア研修: 自身のキャリアを多角的に見つめ直し、新たな役割や専門性の獲得を支援する。 アンラーニング&リスキリング推進ワークショップ: 過去の成功体験に固執せず、新しい知識やスキルを習得し、自らを変革する意識を高める。 エンゲージメント向上施策立案ワークショップ: 組織への不満を解消し、従業員のモチベーションとエンゲージメントを高める具体的な施策を学ぶ。 |
シニア層 | ベテラン社員向けキャリアデザイン研修: 定年後のキャリアを見据え、自身の経験・スキルを活かした新たな役割や貢献の可能性を探る。 ナレッジトランスファー実践研修: 長年の経験や培った知識を、若手社員に効果的に伝承するための方法論を学ぶ。 デジタルリテラシー向上研修(基礎から応用): 業務に必要なデジタルツールの活用スキルを習得し、生産性と業務の幅を広げる。 世代間コミュニケーション研修: 若手社員との価値観の違いを理解し、円滑なコミュニケーションを通じて協働関係を築く。 セカンドキャリア準備セミナー(ライフプラン含む): 定年後の生活設計や、再就職・社会貢献活動に向けた準備を支援する。 |
新任管理職 | マネジメント基礎研修(役割認識と心構え): プレイヤーからマネージャーへの意識転換を図り、管理職に求められる役割と責任を理解する。 部下育成・コーチングスキル実践研修: 部下の強みを引き出し、主体的な成長を促すためのコーチングやティーチングのスキルを習得する。 ハラスメント・コンプライアンス基礎研修: チーム運営におけるハラスメント防止の知識と、法令遵守の重要性を学ぶ。 目標設定と評価フィードバック研修: 部下の目標設定を支援し、公正かつ効果的な評価とフィードバックを行う方法を学ぶ。 チームビルディング入門: 部門目標達成に向け、メンバー間の信頼関係を構築し、一体感のあるチームを作り上げる手法を学ぶ。 |
管理職 | リーダーシップ開発研修(ビジョン共有とフォロワー育成): 組織ビジョンをチームに浸透させ、メンバーの自律性を引き出し、次世代リーダーを育成する力を養う。 ダイバーシティ&インクルージョンマネジメント研修: 多様な背景を持つメンバーが最大限に能力を発揮できるようなチーム環境を構築する。 戦略的組織運営研修: 経営戦略と連携し、部門の目標設定、リソース配分、リスク管理を行う能力を強化する。 心理的安全性構築研修: メンバーが安心して意見を表明し、挑戦できるチーム環境を作るための具体的な手法を学ぶ。 他部署連携・ネゴシエーションスキル研修: 部門間の連携を強化し、合意形成を図るための交渉スキルを向上させる。 |
上級管理職 | 経営戦略と組織変革リーダーシップ研修: 企業全体の戦略を理解し、大規模な組織変革を主導し成功に導くためのリーダーシップを磨く。 新規事業創造・イノベーション推進研修: 既存事業の枠を超え、新たな価値を創造し、事業成長を牽引する思考と手法を学ぶ。 人材ポートフォリオ戦略・タレントマネジメント研修: 中長期的な視点で、組織に必要な人材を見極め、育成・配置する戦略を立案・実行する。 コーポレートガバナンスとリスクマネジメント研修: 企業価値向上に向けた適切な経営監視体制と、全社的なリスク管理体制を構築する。 ステークホルダーコミュニケーション・危機管理広報研修: 顧客、株主、従業員など多様なステークホルダーとの信頼関係を構築し、危機発生時の適切な情報発信を学ぶ。 |
上記のテーマはあくまで一般的な提案です。貴社の顧客企業の具体的な状況や、課題の緊急度によって、最適なテーマは異なります。これらのたたき台を基に、さらに顧客に響く提案をしていただければ幸いです。何かご不明な点や追加のご要望があれば、お気軽にお申し付けください。