突然ですが、10年前のあなたはどうしていましたか。ちょっと思い出してください。「あんなことしてたな」「こんなふうに過ごしてたな」それから今、どうですか?この10年の時間感覚を想像して「そこそこ長かったなぁ…」なのか「ひと仕事できそう」なのか。
ひとり10年、それは平均的な介護に要する期間です。今回は、この10年の過ごし方を「よめさんまかせ」にするとダメですよというお話です。昭和30年40年代生まれの方々が直面する、ご夫婦の関係性と幸福度にもつながります。こころしてお読みください。
介護期間をどう過ごすか
とても個人差がありますが、平均的な介護が必要な期間が約10年前後といわれています。ひとつの情報、教養として、知っておいてください。
計算はこうです。
2022年の男性の平均寿命は 81.47 年、女性の平均寿命は87.57年。じつは前年を下回っています。これは、東日本大震災の影響をうけた2011年以来のこと。コロナ禍による死亡率の変化が平均寿命を縮める方向に働いたようです。そして、最新の健康寿命(2019年)はというと男性72.68歳、女性75.38歳。元気でいられる平均の年齢はこんな感じ。では、引き算してください。平均寿命と健康寿命との差です。
平均寿命 ― 健康寿命 = 介護が必要な期間
男性 81.47 72.68 8.79 年
女性 87.57 75.38 12.19 年
介護が必要な期間を単純に計算すると、男性 8.79年、女性 12.19年となりました。この10年前後の親の介護を、誰が、どうやってケアをするのか。介護は、急に始まる、いつ終わるかわからない、24時間切れ目なく続く、家族だからこそ気持ちが揺れる、という特性があるから、あっという間の10年が「魔の10年」になることもあります。
奥さまにお任せの旦那さま
介護が必要になった場合に、誰が介護をするのかという厚生労働省の調査では、5割強の人が主な介護者は同居の親族と答えています(2019年国民生活基礎調査より)。内訳をみると、「配偶者」が23.8%、「子」が20.7%、「子の配偶者」が7.5%と続きます。同居している主な介護者のうち女性の割合は、65.0%です。
長男ご夫婦であれば「自分たちがやらないと」という責任感や思いがあるでしょう。さらに嫁がやるべきかどうかについて、そもそも専業主婦やパート勤務で動きやすいことを考えると、現実的には奥様が担うことが多くなります。夫婦で話をすることなく、奥様自身が(なんとなく自分がやるしかないな)と感じていたところいつのまにかそうなっていた、という。夫には協力してほしいなと思うけれど、かといってそもそものことから説明して相談し理解を求めるには、時間も気力もビミョーだったり、すでに諦めも。そもそも親の現実を知らない夫が、老いていく親の介護を受け止められないと、そういう会話にも腰が引けがち。さらに、普段から夫婦の会話が少ないと暗黙の了解ってことになってしまいますよね。
介護を奥様に任せるメリット
昭和生まれの夫婦にとって、家族を守ることについて、わかりやすいくらいの役割分担が基本でした。男は長時間労働で定年まで働くことで、生活費を生み出し、女は家で家事と子育て、衣食住を担う。お互いの役割を果たし、責任をもってまっとうするかたちでした。だから子育て同様、介護も女性の仕事としてきたことは、ある意味「あり」だったのでしょう。こうしてお互いに頼りにしあえるパートナーシップが実現してきました。ですので、介護が始まったとしても、かつての子育てのように「嫁に任せておけば安心」でした。1からすべて言わなくても、わかってくれているはず。という「あ・うん」の呼吸もありましたね。
ところが、すっかりバランスが崩れました。そもそも専業主婦という仕事が、アンペイドワークというお金を生み出さない仕事だと下に見たり、評価されない立場の嫁の不満があります。同時に夫は、「時間があるだろうし、親や子どものことは、まぁ喜んでやっているように見えるから」とも言います。どうでしょうか。うっすらと知らない間にお互い、もやっとしていませんか。
家族の介護を奥様任せにしてはいけない5つの理由
1 親の介護から学ぶ機会を失う
近いうち、大事なことを決めるときがやってきます。財産、相続、遺言、入所、重要な判断ができないことが多いものです。親にどうしてもらいたいかを聞くためには、体調が悪化した親のベッドサイドで、それはさすがに聞けません。ふだんからの会話から思考を引き出して洞察する、というのはビジネスシーンと同じです。
2 介護も重なるとかなりの仕事
夫の親と自分の親、それから親戚と、ひとりで複数を介護するダブルケアやトリプルケアも増加しました。さらに今、物価の上昇、近所付き合い、年金の不安、悩みは尽きません。もし、社会の変化に遠い位置にいる家庭にどっぷり浸かりきった専業主婦なら、その解決策は、夫しかいないのですがどうでしょうか。
3 奥様が倒れたときのリスク
家事は24時間365日休みなし。さらに盆正月の嫁はフル稼働。そんな暮らしを続けるといつか不調になるのは当然です。頼れる介護保険も制度改正でだんだん使いづらくなります。保険外サービスも増えましたがやはり出費も。頼みはお金、といっても心細いばかり。
4 コピーする子どもたち
そういうピンチのときの言動行動、子どもたちはしっかり見ています。父と母の気持ちと行動、人柄を見て学んでいます。私は今までの福祉相談業務を通じて、親が自身の親や配偶者にしたこと、言ったこと、そのままコピーされるのをたくさん見てきました。見捨てたら見捨てられる、歳をとることを否定したらやがて老いる自分を否定されます。誰を責めることはできません。それがそのご家庭の文化だとしたら否定はできません。
5 学びの機会喪失
もう・・・介護ってひどい・・・(泣)。そう感じたならごめんなさい。しかし、そういう介護だからこそおふたりで取り組んでもらいたい理由があるのです。人は、家族の介護に寄り添うなかで、介護とは何か、老い、最期、幸福とは、を学びます。介護のプロとの付き合い方のコツや、複雑な公的制度にも詳しくなっていきます。つまり、介護者は経験を通じて学びます。これは自分自身の将来にたいへん役にたつ貴重な経験です。
ところが、奥様まかせだと、夫ご自身は学ぶ機会を失います。老後を目前にしたとき「この夫とは無理」と判断した妻は、どうするでしょうか。自分の将来の介護で不幸感を味わうのは、奥様ではなく、嫁任せにしてきてしまった夫ご自身かもしれません。
今ならまだ間に合う唯一の対策
家族の介護を奥様任せにしてはいけないことを、つらつらと書かせていただきました。元気消沈され、途中で脱落されたりしていませんか?
そこでここまで読んでいただいた方へ感謝の気持ちとして、「今からでもぜんぜん間に合う!たったひとつの対策」をお伝えします。
ヒントはここ。ワーキングケアラーは仕事と家庭の両立を実践する人たち。現状、そこに工夫に工夫を重ねているのが、子育て世代です。あなたの職場の育児を夫婦で助け合っている社員は、どう家事分担をしていますか。どんなルールを活用していますか。男はこうあるべき!と考えてきた世代にとってはなかなか切り替えしにくいことだと思います。しかし、最初は興味半分でもいいので、話をきいてみてはいかがでしょうか。
そのうえで、夫婦の会話を少しずつ増やしていくこと。とくに男性は「聴くスキル」、女性は「論理的に語るスキル」を意識して、会話量を右肩あがりにしてみてください。なかなか腹を割って話しにくいのが親の介護のこと。雑談のついでに出てくるのが本音です。職場でも十分できている方ならご家庭でもできるはず。連休を活用して、お互いの未来を語り合う時間をもっていただければうれしいです。
そして、社内でも未来のワーキングケアラーの理想を語る機会をもってみてください。喜んでお手伝いいたします。