セピア色の昭和の話です。一度就職したら定年まで終身雇用が生活を守ってくれるから、できるだけ安定した大きな会社に、なにがなんでも就職しなさいと、当時の進路指導の先生や親、親戚たちに教えられてきました。これは男性も女性も、です。そして、会社でそういう男性がいたら20代前半のうちに結婚して辞めなさいとも言われたのが女性。前向きな退職、みんなが拍手して応援してくれる退職、いわゆる「寿退社」です。
じつは今、ワーキングケアラーの何人かは、介護を理由にした前向きな退職をする人がいます。なぜそんなことが起きるのでしょうか。
介護がはじまったとしても働くのはやめないで
一貫してそうお伝えしてきましたが、なかには例外もあります。今回は、とってもレアケースですが、人知れず増えている令和の寿退社、介護が始まったことを機会に前向きな退職という決断のすすめについてお話しします。経営層のみなさん、社員のみなさん、自分ごととしてお読みくださいね。
キャリアの再構築には、一度強制的に現状をストップさせる必要があります
ご存知のとおり、健康でさえあれば労働をする人生設計となりました。今の仕事、あなたが60歳70歳80歳そして90歳になっても続けていられそうですか。そもそも今の会社が存在しているかどうか、というのはいちばんの不安ではありますが、今の業務や働き方を、今後数十年もの間、続けていけそうだろうかと考えると、背筋が寒くなります。
年金も心許なく、守ってくれるのは子どもたち、というと気の毒でしかたない。であれば、どこかのタイミングで働くことのリセットをする必要があります。そのためには、無理にでも辞める、または長期で休むのはいい選択だと思っています。
今の働き方改革は、どんなかたちであれ、働き続けることを勧めています。仕事にまっしぐらでいられる男性に頼ってはいられなくなって、日本の労働力の減少が経済力停滞のいちばんの原因になると、かなり前から言われてきました。
そこで、障がい者の力を!(=障害者雇用率)、女性の力を!(=女性活躍社会)、外国人労働者の力を!(=外国人技能実習制度)と言い続けてきたものの全くおいつかず、ついにシニアの力を!(=定年延長)となって、「健康がいいよね、だよね、だからね、元気でさえいれば働こうね。年金も増えるしね」と厚生労働省は、健康推進と労働をひもづけして提唱しています。
親の介護をしながら自分の未来を考えると?
親の介護は、ある日突然にやってきます。え?まさか?ちょ、ちょっと待ってよ、なにもこんな急に?というのがよくあるパターンです。
ところが、そのまさか!という驚きと慌ただしさは、やがて、小慣れてくるもの。数ヶ月すると落ち着くことが多いのです。
このピンチの期間をどうしのぐか?がワーキングケアラーをささえる職場の力のみせどころです。
制度があるだけではダメです。普段からの風土づくりがなければ、このピンチに見舞われた大切な社員は瀕死状態となり、ストレスと疲労でダウンします。そんな病床につき、ベッドに臥床してながめる天井のシミを遠く見ながら「あぁ、私の将来はどうなるのだろう」とため息をつくのです。
ストレスフルな仕事と介護はたしかに明るい将来は見えないもの。定年延長となると、この職場であと何年息を止めて仕事しなければならないのだろうとクラクラしてくる。「このままではいけない」と限界の到来を実感させてしまい、会社と見切りをつける決断をさせてしまいます。
一度、リスキリングをして、自分の価値を高めるチャンスにしたい
男性も女性も、中高年特有の未病、つらさ、自律神経からくる不調を実感する人もでてくるでしょう。仕事に介護にフルでやっていこうと思うと、自分のからだが(正直、親よりも)いちばん心配…という人もいらっしゃいます。
体調を整えるには、仕事を減らしてウエイトを軽くする方法もあれば、仕事はさておいて、じっくり休む方法もあります。ご自身の治療が必要なときには、有給休暇や、給与の8割を傷病手当金として受給(支給期間を「通算して最長1年6か月」と2022年1月に改正されています)できる制度を活用したりできますので、人事担当に相談してみてはどうでしょうか。そのうえで、復職できる元気をとり戻して、昭和のリゲインのように24時間戦ってしまったら、また元の不健康なままになってしまいます。生活習慣によるものも大きいので、年々、回復もそうしにくくなることもあえてお伝えします。
そう、親の介護をする前に、自分の心身のケアの大切さに気づいてください!ということをお願いしたいのです。正直、親の介護とともにワーキングケアラーご自身がダウンするケース、とても多いのです。自分さえ頑張れば!という過去の成功体験があって、今回も自分ががんばることで解決しようとする責任感が災いしています。
いつかは辞めるのだから…
厚生労働省が発表している「賃金構造基本統計調査」において、勤続年数についての調査結果が発表されています。令和2年の同調査によると、労働者の平均勤続年数は11.9年となっています。定年延長しても、今の仕事、今の職場にいると想像しがたいな…と、いつかは辞める時がきそうだとふと不安がよぎるなら、介護が始まるとともに前向きな退職をするのもありです。
リスキリングとキャリアデザイン、そして、ライフデザインを検討してもらいたいのですが、親の介護をきっかけに医療や福祉業界のプロとの接点から、新しい価値観にふれると、あなたの「働く」という世界がぐっとひろげることができます。実際、そういう人もたくさんいらっしゃいます。いい顔、していらっしゃいますよ。
だからこそ、ワーキングケアラーは令和の寿退社。みんなから「いままでありがとう!介護、しっかりね」と花束渡される辞め方です。この職場で数十年先の自分は、幸せそうにしていないなと判断したら、介護を理由に退職してつぎの人生をスタートさせてください。
というのは、社員さま向けの言葉です。いかがですか。あなたの会社、介護で退社する人、増えていませんか。もしそうだとしたら、数年後の人材枯渇、深刻かもしれません。会社のために、社員のために、ワーキングケアラー対策をはじめませんか。