なぜ、読んでもらえないのか?
新聞記者は起こった事件や事故、試合結果や発表もののニュースを淡々と記事にするだけではありません。新聞には企画や特集記事といったスペースもあり、記者はつねに記事になりそうな「取材先」を探しています。送られてきたプレスリリースも、念のため目は通します。ただし、多くが一瞬で捨てられてしまいます。なぜでしょうか。記者として約26年、年間1万通以上のプレスリリースに目を通し、取材し原稿を書いてきた広報コンサルタントの井上千椿(いのうえ・ちはる)が解説します。
プレスリリースとは
多くの企業が、自社商品や情報を広く知らせるために広報活動の一環として、プレスリリースの配信を検討するケースが多いでしょう。そもそもプレスリリースとは、企業や団体が自らのニュースを報道機関に伝えるためにまとめた文書のこと。自社の新しい商品やサービス、事業、人事など未発表のものをニュース素材にし、プレスリリースとして新聞、テレビ、出版社などの報道機関へ送るのが一般的な流れです。
その目的は、報道機関に取り上げられることで読者や視聴者の認知度を高め、社会的信頼性を獲得することにあります。つまりプレスリリースをきっかけに、記者に取材され「第三者の視点」で書かれた記事となって、「メディア露出」するのが狙いです。ちなみに「取材されること」に関して、金銭のやりとりは発生しません。高額な掲載料を払って載せてもらう広告記事とは違い、記者に取材されて記事として載ることは、コストも低く済むわけです。
ニュースリリースやニュースレターとの違い
プレスリリースと似た言葉に「ニュースリリース」や「ニュースレター」などがあります。報道機関に送る公式文書がプレスリリースで、ニュースリリースは報道機関以外にも広く世の中に伝えるためのもの、ニュースレターはニュース性がない読み物などが多い場合に用いるなどの違いがあります。ただし、受け取る側からいうと、あまり関係ありません。
企業の広報担当の方に「どの体裁で送るのが、記事にされやすいのでしょうか?」とご質問を受けることがあります。確かに見た目は大事かもしれませんが、受け取った文書の体裁、デザイン、色合いなどで取材して記事にするかどうかを決める記者はいないと思います。
なぜ読まれないのか?
私は記者時代、年間1万通以上のプレスリリースに目を通してきました。郵送やFAX、メールなどで日々大量に送られてきます。ただし、そのうちの9割以上が一瞬で捨てられてしまいます。その理由は、単なる自社の新商品や新サービスの宣伝、紹介のような内容が中心になっているからです。
あなたが書いたプレスリリースを読む人は、あなたの「お客さん」ではありません。記事になる「取材先」を探している人間です。メディアに取り上げてもらおうと思うと、ついチラシのような売り込み情報をプレスリリースに盛り込みがちです。しかしこれでは逆効果。読まれないプレスリリースとして、一瞬で捨てられてしまいます。
記事にする「取材先」として記者が探しているのは、単なる商品やサービスの宣伝情報ではありません。その商品やサービスが、世の中にどう役立つのか、社会にどんな変化をもたらすのか、そんな情報を探しているのです。
ピンポイント広報で攻める
通常、商品やサービス設計は、使ってほしいと思うターゲット層が「何を必要としているのか」を把握することから始めると思います。需要を探らず、作られることはまずないでしょう。
メディアに取材されるためのプレスリリースを作る際も同じです。その文書を読む記者の「ニーズ」にマッチした内容になっていれば、自然と反応が高まります。つまり、書く内容の切り口を「自社軸」にするのではなく、「社会軸」から考えていく必要があるのです。書き方を模索するよりも前に、まずこの点を絞り込んでいく作業が大切です。
もし、これまでプレスリリースを送っても反応がなかったというご経験があれば、どんな切り口で書いたか検証してみてください。もしかしたら、お客さん向けの商品情報になっていませんか? 自社軸に偏った読まれないプレスリリースになっていませんか?
取材されるためのプレスリリースは、作成数や配信数がメディアに取り上げられる確率とは比例しません。「数を撃てば当たる」のではないのです。自社のニュースを取材されるための切り口に変え、ピンポイントで攻める広報を――。読まれないプレスリリースを書き続けるのを終わりにしましょう。